籠池さん夫婦と勾留
報道はされていませんが,籠池さん夫婦は勾留されたようです。
清原さんの覚せい剤事件については送検も勾留も報道されたのに,不思議です。
いずれにしても,籠池さん夫婦に対する勾留の当否についても,少しだけ書いてみようと思います。
逮捕の後には,勾留という手続がなされることがあります。
逮捕は簡易な身体拘束,勾留は本格的な身体拘束と考えてよいです。
勾留には,起訴前勾留と起訴後勾留があります。籠池さん夫婦に対してなされたのは,起訴前勾留です。
起訴前勾留について,刑事訴訟法は次の様に定めています。
第207条 前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
(但書及び第2項以下省略)
一読しただけでは意味不明ですが,これは,裁判所による起訴後勾留の規定を起訴前勾留の場合にも使う,という意味です。
そして,刑事訴訟法は次の様にも定めています。
第208条
第1項 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第2項 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて10日を超えることができない。
起訴前勾留は,原則10日,やむを得ない場合に延長して更に10日,最長20日ということですね。
では,どのような場合に勾留されるかというと,刑事訴訟法は次の様に定めています。
第60条
第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
第2号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第3号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
(第2項以下省略)
つまり,
➀罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
があることを前提に,
②ⅰ住居不定
ⅱ罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由
ⅲ逃亡し逃亡すると疑うに足りる相当な理由
のいずれかが認められるときに,勾留は可能ということです。
逮捕の要件は「おそれ」でしたが,勾留の場合は「疑うに足りる相当な理由」であることに注意すべきです。
この2つの言葉は異なる意味です。
なぜなら,刑事訴訟法は,現行犯逮捕の必要性を定めた第217条において,「おそれ」という言葉が使われているからです。
同じ意味であるなら,どちらも「おそれ」という言葉を使えばよいところ,あえて別の言葉を使うというのですから,異なる意味であるということなのです。
また,戦前刑訴法では「おそれ」であったところ,戦後刑訴法において「疑うに足りる相当な理由」とした改正経緯も理由です。
裁判所も,刑事訴訟法第60条第1項第2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるとき」について,「それは罪証隠滅の単なる抽象的な可能性では足りず、罪証を隠滅することが、何らかの具体的な事実によつて蓋然的に推測されうる場合でなければならないことが明か」と判示しています(大阪地決昭和38年4月27日判例時報335号50頁)。
勾留において「おそれ」という言葉を使っている法曹は,六法を開いて条文を読むことすらしておらず,即刻その職を辞すべきでしょう。
さて,籠池さん夫婦の話に戻ります。
籠池さん夫婦に対する勾留は妥当でしょうか。
まず,➀罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由は,報道を見る限り問題なさそうです。
次に,②ⅰ住居不定については,テレビで籠池さん夫婦が自宅で食事をしている映像が流れていましたし,認められないでしょう。
問題は,②ⅰ罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由ⅱ逃亡し逃亡すると疑うに足りる相当な理由が認められるか,です。
しかし,既に捜索差押えが既に終わっている現在,隠滅できる証拠があるとは思えませんし,国会や大阪地検の出頭要請に素直に応じてきた籠池さんが逃亡するとも思えません。
私は,籠池さんに対する勾留は,違法かつ不当と考えます。
以上